◇卯月、声SS

昔の僕はどうしようもなく自分の殻に引き篭もっていた。

昔から自分の発音に自信がなかった。
言葉を発していても、うまく言葉が出てこなかった。
発する声は段々小さくなっていった。

ある日、僕の言葉を笑われた。
相手は微笑ましく笑っただけなのかもしれない。
でも、幼かった僕にはそれが何を意味していたのかは解らなかった。
すべてはもう過ぎてしまったこと、今更の話だ。

その日からしばらくの間。
僕は、言葉を失った。

 


今はもう喋れるようになったよ。
発音も一過性のものだったらしくて、もうあまり吃らなくなったしね。
ただ、どうしてもストッパーがかかってしまうのかな。
思ったほど声が出せないんだ。
だから、誰にも僕の想いは伝わらない。
当然だよね。だって声が届かないんだもの。

でもね、僕は喋るのをやめようとは思わない。
伝えるのをやめることは、自分を蔑ろにすることだから。
自分を大切にできない人を、見てくれる人はいないと思うから。

僕の声を伝えるために。
僕は世界の端っこで、小さな声を届け続けるよ。

 

一人でも、昔の僕みたいな辛い想いを抱えている人のために。
君はここにいるのだと、いてもいいのだと教えられるように。
誰かの小さな癒しとなれるように。
 

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卯月は見た目のか弱さに反して、とても芯の強い子です。

何かにつまずくことがあっても、彼は決してそこで諦めようとはしません。
やらないで後悔するより、やって後悔したいんだと思います。

彼の思考がそういう傾向になったのは、
声を失った時期の周囲の人々のから受けた優しさに起因します。
余程良い家族や友人に恵まれたのでしょうね。
誰かの救いになりたいという願いは、自分が昔その立場だったからではないでしょうか。

話すことは未だに苦手ですが、人とコミュニケーションをとるのは好きです。
もともと言葉多い人間ではないので発言は少ないのですが、話すことも実は大好きです。
 

 

 

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