◇にび、なまえSS

にびの名前は『鈍』。
この名前はにびを救ってくれた仄香がつけてくれたもの。
他の誰でもない、にびのためだけに付けてくれた大切な名前。
『お前』や『あなた』や『こいつ』や『それ』や『君』でも『あの人』でもなく。
――『鈍』、なんだ。

名前が付いて以来、にびは自分のことを『にび』と呼ぶようになった。
まるでここに自分がいること主張するかのように。
名前を呼んでいなくては、自分が消えてしまうかのように。
『お前』や『あなた』は不特定多数の人間に使える便利な言葉だ。
だからこそ、『鈍』はにびであり、『鈍』以外の誰も指さない。
名前を呼ばれることは、存在を証明されること。
誰かから必要とされているということ。

ねぇ、誰かにびの名前を呼んでよ。
にびを……俺を捨てないでよ。
独りでいるのは寂しいよ。

寒いよ。
雨の日が怖いよ。
頬を伝う雨粒に慣れてしまうのは嫌だよ。

ねぇ、誰か!誰かにびの名前を呼んで!
にびは要らなくなんかないんだって信じさせて!
にびは、にびは。にびは!
にびは、俺は、まだみんなの傍にいたいよ……。

誰か……にびを助けて。

 

 

「鈍」
光の向こう側から、確かに自分の名前が呼ばれた。
耳を澄まさないと聴こえないくらい――小さな声だった。


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雨が怖いのは「捨て猫」だから(笑)。
ほら、雨の日の捨て猫って絵になりますよ……ね?

最後に鈍の名前を呼んだのは宇野卯月君といいます。
鈍と卯月、この二人の組み合わせが好きです。
鈍→→→←卯月くらいの依存度合い。でも多分BLとかではないです。

鈍、我が家の子の中でも一二を争う根暗っ子でしょうか。
よほど気を許した相手でないと、この本性を見ることはありません。
嫌われる、無視されるという結果を最も恐れるからだと思われます。

ただ、どんな信頼できる人の前でも決して泣くことだけはしません。
「泣いても助けは来ないものだ」と過去の実体験をもって刷り込まれているためです。
実際のところは必ずしもそうでもないというのに、
矮小な世界で臆病に生きているのでよく見えていないのです。

彼にとって重要なのは、こんな自分でも愛してくれる存在。
自分の黒い部分を知ってもなお、全てを包み込んでくれるような温かな人。
いつもそんな絶対的な救いの存在を求めています。
 

 

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